DESIGN STORY

川崎市新本庁舎

防災と環境の
融合した建築

あらゆる都市型災害を想定した極めて防災性能の高い庁舎

川崎市役所本庁舎は、市民の安全で安心な暮らしを確保するため、災害時には災害対策活動の中枢拠点として十分に機能する庁舎が求められた。わたしたちは、”あらゆる災害を想定し、大規模災害時にも継続して建物機能と生活を守る”ことを新庁舎計画の大きな設計コンセプトとした。
また機械設備設計者として、都市型の庁舎においてはカーボンニュートラルの実現に向けたレジリエンス性能(LCB)、省エネ性能(ZEB)、省資源性能(ZWB)の3 要素が3位一体となった性能が必要であると考えた。省エネ性能、省資源性能が高いほど建物内の負荷が下がり事業継続、自立活動を容易にできるレジリエンス性の高い建築になるからである。(ZEB Ready取得済、ZWB64%程度を予定)
計画敷地付近には多摩川がある。多摩川氾濫時にも影響を受けないように中間免震構造とし、主要な機械室は、中間免震層の上部に配置し、地震や水害に配慮した。1階アトリウムは半外部のオープンスペースとすることで、災害時には緊急車両がそのまま乗り入れることが可能で、即座に災害対策活動スペースに機能変更が可能な計画としている。

  • 日射を抑制し呼吸する外装
    -エコマルチウォール-

    空調負荷を抑制するため、外装はPC板(プレキャストコンクリート)を利用した外壁とした。カーテンウォール等により開口部を大きく確保する外装の建物に対し、窓を極力小さくすることで、熱負荷を徹底的に抑制する計画とした。窓が小さいことはガラスが落下するリスクを抑え、市街地の火災の延焼も避けることができる。
    南北面の外装は、コの字形状のPC板(「エコマルチウォール」)とし、日射抑制および換気機能等の環境技術を外壁に融合させている。
    窓の両側に「エコマルチウォール」を配置し、窓周りの彫を深くすることで日射を積極的に遮る計画とした。これにより年間の熱負荷は156kWh/m2・年と、一般的なポツ窓外装に比べて約64%削減できる見込みである。また縦長の窓とすることで、ポツ窓よりも熱負荷を抑えつつ、高い昼光率を確保し、明るい室内となるように計画した。
    縦にダクト状につながる「エコマルチウォール」は、1年中、換気(給気・還気)が可能なように計画した。高層建築物である高さを活かし、最上部のガラスボックスが日射で暖められることにより、空気が上昇気流を起こし、その煙突効果によって、換気を促進する計画である。

防災性能と環境性能の両立

羽田空港が近くにあり、航空法による建築物の高さ制限がある中で階高を有効活用するため、SC梁(鉄骨コンクリート梁)とボイドスラブ(中空コンクリート床)の採用により防災性能、環境性能を追求した。
基準階執務室は、地震時、落下物による被害を回避するため、無天井とした。また階高3950mmに対し、天井高3380mm(大梁下2800mm)を確保することで、開放的な執務空間を実現した。
無天井空間である執務室内は、アンビエントの床吹出口とパーソナルの床吹出口を併用した床吹き出し空調とし、無天井空間を効率良く空調した。
パーソナルの床吹出口は、すべての座席の下部に設け、執務者が好みに合わせて風量、風向を個別に調整できるようになっている。アンビエントの床吹出口は、変風量に対応できる大温度差型の床吹出口(MD付き)を採用することで、風量が弱運転の場合でも冷風が上部に上がり易くなるように配慮した。
空調換気システムはデシカント外調機で潜熱処理を行い、中温冷水を利用した顕熱処理空調機で室内顕熱負荷を処理することで、省エネかつ快適な空間を目指した。(潜顕分離空調)

  • トイレの排水を再利用し、
    建物内での「水」を循環

    レジリエンス、省資源の観点から地下の機械室および地下ピットには排水再利用設備を設け、トイレ洗浄水(雑用水)として再利用している。断水時にも、トイレの排水(全階の雑排水と奇数階の汚水)を循環させることで、電気がある限り永続的にトイレを利用できる計画とした。(ただし汚泥排出等のメンテナンスは必要)
    排水再利用設備は、活性汚泥方式+回転ドラム方式とし、色度処理に活性炭吸着塔で処理を行い、雑用水としての水質を確保している。
    雨水と空調ドレン水もろ過して雑用水として再利用することで、建物内の雑用水を再利用水で100%代替し、建物全体の年間使用水量の64%程度を再利用できる見込みである。排水を再利用することは、建物から公共下水への排水量を削減し、地域インフラへの排水負荷を低減することにも貢献している。
    なお排水再利用設備は、停電時(中圧ガス有)には非常用発電機およびCGS(コージェネレーション)からの送電とし、継続利用できる計画とした。さらにCGSの冷却塔は、非常時に冷却水が無くても稼働できるように空冷、水冷両方の運転が可能な冷却塔とした。

  • 設備設計者の想い

    本計画は、2014年6月に始まった基本計画から2023年の6月までの竣工まで約9年ものプロジェクトであった。
    基本計画、基本設計、実施設計(詳細設計)、監理業務と一貫して担当し、大変なことも多かったが、発注者である川崎市、プロジェクトチーム内のメンバーに支えられ無事竣工に至った。
    今後は、防災計画(LCB)、省エネ(ZEB)、省資源(ZWB)の視点からデータ計測、詳細な分析を行い、更なる検証を行っていく予定である。

    機械設備設計室 主管 高橋雄太

竣工年
2023年
所在地
川崎市川崎区
延床面積
62,356m²
階数
地上25階地下2階
構造
S/一部RC/SRC

川崎市新本庁舎

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