2022年10月、当社社員であるパラ・パワーリフティングの坂元智香選手と共に、建築やまちづくりのバリアフリーデザイン体験検証を実施しました。その際は東京本社の社員を対象に行いましたが、支社所属の社員からも声が寄せられ、2年ぶりに名古屋にある中部支社で実施されました。今回は国内5拠点の支社から数名ずつが集まりました。
2022年の実施では、設計者が車椅子体験を行った場所は、本社周辺の閑静な歩道と当社が設計した建物の敷地内に限られていました。しかし、今回は名古屋駅に近い中部支社から検証をスタート。地下鉄、人通りの多い名古屋駅の地下街、商業施設、そして当社設計の建物など、すべてのルートを設計者自身が実際に車椅子で移動しました。坂元選手からは「車椅子ユーザーが移動する際、次に何を考えているのかも意識して欲しい」とのアドバイスがありました。これにより設計者は「地下街に下りるためのエレベーターの場所や、その案内標札はどこか」「電車乗車後は車両のどのポジションに居たら良いか」「エレベーターに乗る際、前向きと後ろ向きのどちらが良いか」など建物内や設備などの細かい視点のみでなく、「まちに出る」という広い視点での課題にも直面しました。慣れない車椅子での移動に設計者は四苦八苦。1/20勾配のスロープでは、緩やかだと認識していた傾斜が車椅子では予想以上に大変であることを実感し設計の基準はあくまで最低限の規定であることを痛感しました。
住宅設備機器メーカーにご協力頂き、多目的トイレのショールームやモックアップを使用した検証も実施しました。多目的トイレを設計している開発担当者から直接説明を受け、限られた空間の中で車椅子ユーザーだけでなく、あらゆる方が使用出来るために細部に施されている工夫を解説頂きました。その後、さらに改善出来るところはないか、ボタンや設備の仕様はパッケージのみでなく、カスタマイズすることは可能か、など参加者全員で議論し開発担当者からも「さまざまな意見を交わせたので、社内で検討していきたい」とお言葉を頂き、大変貴重な機会となりました。
ご協力頂いた施設運営者、住宅設備機器メーカー、また今回車椅子をお借りした地域福祉事業の皆さまに、この体験検証をご賛同頂いたことで、内容がより有意義なものとなりました。参加した社員からは「法令に遵守するのみでなく様々な配慮が設計には必要だ」と実感し、検証を通じて得た気づきが大きな学びとなりました。また、検証内容を支社に持ち帰り共有することで、多くの社員と議論を重ね、新たな知識・視点を取り入れる機会を設けています。このプロセスを通じて、より実践的なバリアフリーデザインの実現に近づけると考えています。
今後も建築やまちづくりにおいて、ダイバーシティ&インクルージョンを多様な視点から追求し、さらなる進化を目指してまいります。