DESIGN STORY

福井厚生病院

あたりまえの日に
寄り添える建築を
目指して

地域医療に生きる病院の
在り方を考える

2016年の晩夏、福井市下六条の田園風景のなかにある福井厚生病院を訪ねた。前週に医療法人厚生会の理事長から新病院プロジェクトのコンペ参加依頼を受けたことから現地調査を兼ねてお話を伺うためである。理事長は前職時代、大村進・美枝子記念 聖路加臨床学術センターの設計の際に施主側のまとめ役をされ大変お世話になった方であり、嬉しいことにその時の仕事ぶりの印象からお声がけを頂けたようである。
福井市街の南東に位置する福井厚生病院はまさに都市のエッジで、北側の市街地とは対照的に南側には遠く文殊山の麓まで田園が広がり、収穫直前の稲穂が首を垂らし黄金色に色づいた風景は一目で惚れるほど美しい風景であった。
稲穂の風景に心洗われながら院内に入ると、掲示板にも黄金色の稲穂の中を走る1両編成の電車の風景があり、そこには「あたりまえの日に寄り添いたい。」というメッセージが添えられていた。
これは厚生会グループの30周年を記念した新聞掲載広告だったのだが、このメッセージに込められた病院の姿勢に深く共感すると同時に、地域医療に生きるこの病院の一助になりたいという気持ちに駆られコンペへの参加を決めた。

  • 雪洞(せつどう/ぼんぼり)
    ような丸みを帯びた建築で
    厚生病院の優しさに応える

    計画地は前述の通り南側に田園風景と文珠山が見渡せる豊かな環境であり、夏は新緑の若葉色、秋は稲穂の黄金色に加えて、冬には雪化粧の姿も見せる。
    現地調査から戻りチームでの対話で示したファーストスケッチは「かまくら」のような優しい形状の箱が屋根の下に寄り集まった形態であった。北陸・雪国からの着想もあるが、それ以上に現地でみた稲穂の絨毯の中に白く柔らかな形状の建物をそっと置きたい、それがこの地には一番似合うはず、という衝動の方が強かったかもしれない。
    建築の設計としては本来はもっと論理的説明が必要なのは十分承知しているが、今回のプロジェクトではこのファーストインプレッションを大切にしたいと思った。厚生病院で見た「あたりまえの日に~」という優しさに溢れた病院の想いに応えるには建築の論理性を越えた設計者の強い想いで向き合うべきだと。
    コンペに当選後、この特徴的な建物形状は層間の大屋根を取り払った形に昇華させるとともに、ゾーニング的な合理性やエンジニアリング的な融合性、そして利用者にとっての空間の快適性など様々な「建築のウリ」に繋がっていくことになる。

  • 病院スタッフの想いを
    最大限とりいれる
    「アメーバ式ゾーニング」

    病院に限った事ではないが、設計プロセスの中でクライアントの建築に期待する思いをどのように取込むのかが重要だと考えている。特に様々な専門領域の集合体である総合病院の場合は限られた敷地と床面積のなかでそれらのエリア設定をどうするかが大きなカギであり、その最適解を見つけるためにスタッフヒアリングを2年間に亘り幾度となく重ねた。
    その度に平面計画は大きく変化するのだが、この形態デザインはゾーン毎の箱をアメーバのように伸び縮みさせスタッフの要望に柔軟に対応できる仕組みを持ち合わせている。さらに箱の形状をコンセプトとして掲げた雪洞(せつどう)を思わせる角丸とし、積み重なる角丸の箱がそのまま外観に現れるデザインとすることで、スタッフヒアリングを納得するまでトコトン繰り返し要望を最大限取り込みながらも建築としてのデザイン性も介在させることが出来た。

  • 箱の隙間が地域に開かれた
    利用者の快適な空間になる

    アメーバの様に幾度となく伸び縮みさせ決定した箱と箱の隙間は、メイン玄関や併設された売店直結の入口など目的毎に建物へアクセスできるように複数の入口として使われており、売店で焼かれるパンの香りに誘われて学校帰りの学生が寄り道できるような公共性をもたらしている。また、廊下となる部分はガラス張りのオープンエンドとするとともに、地域の方が描いた絵を展示できるギャラリーを併設したり、入院患者とお見舞いに来た家族が和む談話スペースになったりと、箱の隙間の特性を活かした居心地の良い空間として出来上がっている。
    大きな隙間である中央のプラザは天窓+新型の光ダクト(特許取得)を通して拡散された自然光が膜天井を通して優しく降り注ぐ空間に、中規模の隙間となる病棟階の廊下ホールは天窓からの自然光を感じる病室に近いリハビリスペースとするなど、箱と箱の隙間が豊かな空間性をもつデザインになっている。

  • 働くスタッフにとって
    誇れる病院をつくる

    スタッフや幹部との対話を重ねる中で、昨今の医療従事者不足を再認識するとともに、地方の民間病院ではより一層の人材確保が難しいことを痛感した。
    そこでスタッフの集まる病院にすることがこの新病院建設プロジェクトに課されたもう一つの役割と捉え、患者さんに安らぎの空間を提供すると共にスタッフにとっても快適で誇らしく働ける場としての病院を目指した。
    夜間など少ないスタッフでも病棟間の連携を取れるようスタッフエリアを背中合わせに近接させる機能合理性に加え、病棟廊下に出島の状にサテライトスタッフカウンターを設置するなど、コミュニケーションを誘発する仕組みを持たせた。またメインのスタッフステーションは見通しの良いガラス壁に加え、天井はライン照明・空調吹出口が一体的にデザインされたルーバーにすることで、医療系ラボを思わせるスタイリッシュな空間としている。

建築は利用者のためのものである。このプロジェクトでは患者さんは勿論のこと、ここで働くスタッフにとっての建築でもありたいと考えた。
その想いから幾度となくスタッフと対話し、他施設の勉強視察を行い、議論を重ね、机に広げた図面に幾度となく赤ペンで上書きをしながら、病院スタッフとともに作り上げた建築である。新病院開院後には地元中学生の職場体験を開催したり、医療系学生からの問合せも多くなったと聞いている。
現病院スタッフと設計者の想いが詰まったこの病院が次なる世代に受け継がれることを願っている。

写真撮影:川澄・小林研二写真事務所

竣工年
2022年
所在地
福井市下六条町
延床面積
12,675m²
階数
地上3階
構造
RC造

福井厚生病院

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