奈良県初の、国および県の出先機関と市庁舎を一体的に整備する施設である。
五條市は水運や街道の要衝として栄えた地域であり、奈良時代に建築された国宝「栄山寺(八角堂)」や、重要伝統的建築物群保存地区である「五條新町」など、歴史ある街並みを残している。
また、江戸時代の浄瑠璃『艶容女舞衣』の名セリフ「大和五條のあかね染め」にちなみ、古来の伝統色「茜」の復活を地域おこしとして推進しており、「伝統文化の継承」と「地域活性化」の象徴として「茜色」を庁舎に取り入れた。
五條モールには、金剛山の稜線を描く木ルーバーによる天井を設えている。
37面の断面図に座標を示し、何とか図面が施工者に伝わるよう努めた。どのように作るかという試行錯誤から奮闘が始まったが、施工者は率先して3次元のデジタルファブリケーションを導入し、1つ1つ形の異なる部材をナンバリングし、干渉や造形を何度も確認しながらモックアップで精度を検証した。「座標がなかったら組み立てられませんでした」と後に聞かされたが、図面に込めた思いが伝わったのかもしれない。木ルーバーを固定する「せき板」をブラックアウトするか悩んだが、手仕事の美しさを伝えるため、あえて無塗装のまま残すことを選択した。
地元企業が地域に誇れる、ものづくりのすばらしさを市民に伝える開かれた場となった。
五條市は奈良県南部の拠点として広域的な防災拠点の役割を担うため、大地震後も業務を継続できる防災拠点とする必要があった。免震構造の採用にあたっては、耐震構造との比較にPML(予想最大損失額)を用いて検証し、イニシャルコストは高くなるが、ライフサイクルコストで判断すると同等かそれ以上のメリットが得られることを関係者に共有した。関係者は免震体験車によりその効果を体験し、免震構造の必要性に対する理解を深めていただいた。
また、天井材や重量機器の落下に備え、無天井化を図り、床下空調を採用している。インフラのバックアップも備え、安心と安全を守る庁舎を実現した。
五條市の気候特性を活かし、パッシブ・アクティブ手法を有効に組み合わせて計画した。デシカント空調機による「カラっと」空調、ドラフトの小さい居住域(床吹き出し)空調、窓周りのエアフローシステムなど、省エネルギーだけでなく、執務者の快適性にも配慮したシステムを採用している。
大屋根には「二重屋根システム」を採用し、暖房時の外気取り入れ経路として利用している。温熱シミュレーションにより最大9℃の上昇を確認し、太陽熱を空調用エネルギーとして有効活用している。また、中間期に自然換気を効率的に運用するため、3つの空調換気モードを構築し、エコボイド利用期間の長期化と有効性の向上を目指した。
予算との調整により、免震構造の上部にある庁舎機能については、国・県・市で共有可能なものを極力絞り込んだ。そのため、「にぎわい棟」は木造平屋建てのローコスト設計とした。要求される施設機能により屋根のスパンを7.85mに設定したため、張弦梁を採用し、モーメントが最小となる箇所に接手を設けている。これにより、一般流通の木材を使用した木造構築が可能となり、工事費を抑えた。
L字型の平面形状は、五條高等学校の記憶を残す「くすのき」と共に広場を柔らかく囲む配置とした。お昼時には市民がランチを楽しむ姿も見られ、別棟として計画したことで、気軽に利用できる親しみやすい施設になったと感じている。地域の魅力を発信し、体感できる施設として、イベント時には市民が集える場となり、長く愛されることを願っている。
市民にとっては、災害時に防災の拠点として十分に機能することで安心感を与えている。また、駐車場が広くなったことや庁舎内が明るくなったなどの意見があり、庁舎スペースを利用したイベント等が市民に好評で地域活性化につながっている。
庁舎が新しくなったことで、職員の環境も良くなり、まち全体の雰囲気が明るくなった様に感じ、プロジェクトメンバーで思い描いていた風景が実際に広がっている。(新庁舎整備推進室担当者)