DESIGN STORY

四日市市中央緑地スポーツ施設

スポーツの躍動・
感動が広がる市民公園

  • 関係性を考えることから始める

    干渉を生み出す
    「弓形プロムナード」と
    「スポーツフォーラム」

    2021年に開催が予定されていた三重とこわか国体。そのメイン会場の1つとして約28.5haある中央緑地が整備された。2020年東京オリンピックの翌年開催の好機が新型コロナウイルス感染拡大により中止となったが、最寄りに日永と新正駅があり、名古屋からアクセスしやすい好立地を活かして、東海エリア最大の総合スポーツ公園として本格始動し、盛り上がりを見せつつある。
    「ここでしかできないコト」・「ここにしかできない場所」をつくり上げたいという想いとともに、すべてのスポーツ施設・フィールドが互いに関係性を持ってつくられる環境をイメージした。中央緑地の中心に、メインアプローチとなる国道1号から新正駅へと抜ける「弓形プロムナード」を走らせ、アリーナ・弓道場・広場・フィールド施設のすべてを繋ぐ構成を考えた。建築ではアリーナを中心に中央緑地全体の休憩所・ロビーとなるスポーツフォーラム、フィールドと連携した利用ができる多目的室、中央緑地全域を見渡せる屋上(スカイストリート)をつくり、ランドスケープとして、弓形プロムナードを介して、建築と市民ひろば、芝生・遊具ひろば、スポーツフィールドが互いに干渉し合いながら、繋がりを持って広がっていく、中央緑地全域へと展開していく「市民公園」を設計している。スポーツの高め合う感動が互いに響き合いながら、連続して広がっていく躍動の様を建築環境に表現することを試みている。

大切なのは「地域に開かれたスポーツ拠点」であり続けること

それを実現する建替プロセスと
発注の提案

当初、四日市市でまとめられていた基本構想は、既存第二体育館、新アリーナ、サッカー場三面の3つが中央緑地の全体性とは無関係に配置されたものであった。それぞれの工事が別々になされ、工事工程上も干渉し合わない最も簡単な発注をイメージしたものだった。
国体において各種競技を全うに行うことだけを考えれば、それぞれの施設の最適化だけを実現すればよいのかも知れない。しかし私たちは国体後も末永く、プロスポーツの興行からアマチュアスポーツの利用まで、さまざまな体育活動やイベントの会場として、地域に開かれたスポーツの普及・振興の拠点であり続けることが大切だと強く考えた。中央緑地の中心にアリーナを据え、そのまわりに全ての利用者が集うスポーツフォーラム、内部からも外部からも利用できる多目的室をつくり、この建築を起点に放射状に広がるようにサッカー場、市民広場、芝生ひろばを配置する構想を提案した。これらすべてを繋ぐ弓形プロムナードが全体の構成を成立させ、かつ利用者そして地域の主動線となる背骨(軸)となる。
この中央緑地が関係性を持ってつながる全体の骨格づくりを実現するためにアリーナを単体として捉えるのではなく、中央緑地全体の中心として機能させることを考えた。3つの施設が互いに関係し合うことを実現できる建替プロセス、各工事エリア設定の入念な検討と発注区分と発注方式を含めた総合的な提案を行い、丁寧な議論を重ねることで受け入れて頂いた。5年に渡る仕事となった。

  • 「スポーツフォーラム」と
    「弓形プロムナード」に込めた想い

    すべてのスポーツ選手・
    観客・サポーター・市民が
    集う活気あふれる場所

    中央緑地は日本の高度経済成長期に発展した工業地域と市街地の間に市民の健康のために「緩衝緑地」として整備され、長い時間を経て緑豊かになった歴史を持つ。「弓形プロムナード」と「スポーツフォーラム」は、この緑の記憶を継承する場所にしたいと考えた。
    スポーツフォーラムは中央緑地のすべての施設を利用する市民のロビーとなる。内外が一体となって連続する空間、市民が自由に気軽に立ち寄れる空間とすることを最も重要なテーマとした。大きな深い軒を持つ庇空間により、市民を呼び込む。内部空間はふたつの屋根を異なる架構・ハイサイドで結ぶつくりとして、構造架構と木格子を介して光や風が抜ける場所とすることで、木漏れ日が降り注ぐ並木を歩いているような「居心地」がよい建築としている。水面に浮かぶ波紋が重なるように、ループ形状の造形、屋根・ハイサイドライト,構造フレーム・木格子が重なり、様々な性格の空間が互いの気配を感じながら展開していく。訪れる人々を巡ってみたくなる気持ちにさせる場をつくっている。「場所性・固有性」を発揮する奥行きのある空間構成をつくる構造デザイン(サスペン・アーチ架構,バランス・フレーム構造)を試みている。
    「フォーラム」と名付けたのは、屋外スポーツ、屋内スポーツの両方の関係者が集い、公園利用者・市民が気軽に交流できる「活気あふれる空間」という想いを込めた。
    弓形プロムナードには可能な限り緑を残したいと考えた。既存樹木の位置と大きさ・樹種を丁寧に調査し、新しい計画と重ね、保存できる樹木、移植が必要な樹木を整理することからはじめた。既存樹木を可能な限り保存し、新しい建築やフィールドと干渉する既存樹木は樹形を維持した状態で敷地内移植をして保存している。弓形プロムナードには保存樹木の位置に木の葉の形やしずくの形をした休憩スペースを計画し、メインアプローチとなる国道1号側には、樹形を維持した敷地内移植による3列の列植を「並木アベニュー」として、緑地景観の記憶を市民に感じてもらえる場とした。中央緑地のメイン玄関となる「並木アベニュー」すべてのフィールドを繋ぐ「弓形プロムナード」は自然環境・公共資源を保存し、次世代に継承していくことの大切さを伝えていくランドスケープになると考えている。

  • スポーツの力が集う夢の舞台をつくる

    心の高揚・躍動感を表現する煌びやかな金属外装
    高め合う感動が生まれ奏でる重なりのアリーナ空間

    2020年に開催される予定だった東京オリンピック、その翌年開催の国体。
    三重とこわか国体は、オリンピックで活躍した選手たちが集まる、オリンピックの感動が醒めぬ間にその技を目にする大会になる。この二度とはない絶好の機会に相応しい建築をつくることで、スポーツの力が集まる「夢の舞台」にしたいと考えた。
    例えるなら、高校野球の甲子園、ラグビーの花園、サッカーの国立のように、スポーツを極めようとする若い力が目指す東海地区の夢の舞台である。
    アリーナは中央緑地の中心に建つ景観として、やわらかな優しい表情、一度目にしたら忘れられない象徴性、市民が親しみを持てる建築にしたいという想いから、機能性を基本にしながらもスポーツの躍動感を表現する造形を考え、素材には日本有数の工業都市、四日市の産業技術を象徴する金属素材を用い、煌びやかで空の色や自然光により、豊かな表情を魅せる「顔つき」がよい建築としている。
    金属の煌びやかな表情を活かしきるシームレスな外装ディテールを考案した。一般的には屋根材に用いる0.4㎜の薄板に折れ加工を施すことで外装材としての強度を確保。素材にはフェライト系SUS素地にエンボス加工(凹凸のある加工)を施し、金属の特徴である光沢感を活かしつつ眩しさを感じない材料を選定した。凹凸なく屋根を葺く嵌合式工法(熱伸びに一体的に追従)を外装に応用することで、シールレスの金属の接合、金属の連続による滑らかな3次曲面の壁面、止水性の高い美観を持続する外装を実現している。
    アリーナ内部は、3500人の観客席を有するプロスポーツ観覧場としての機能を持つ建築として、内部空間の形態演出を外観のフォルムにシンクロさせている。高まる躍動を解き放つ大会時の高揚感、日常の市民利用・練習時に閉鎖的にならず、快適に過ごせる開放感を持つ内部空間である。観客席の背景となる壁面を上に昇るにつれ、すり鉢状に広がる形態とすることで、際限なく高まる期待と無限に広がる可能性の表現を試みた。高揚感・無限の可能性を互いに重なり合い、広がっていく格子柄で表現する内装デザインとしている。木目が個性的な唐松をW150㎜×D50㎜の単板積層材として、しなやかでやわらかい状態にして用いることで、3次元曲面に自然に馴染ませた。

  • 市民にとって何が大切かを考え、
    感覚を研ぎ澄ますこと

    その想いが時代を超えて
    長く愛される建築をつくる

    この建築を構想し、つくり上げるまでの過程には沢山の出来事があった。
    三重とこわか国体の開催に間に合わせるため、中央緑地全体に渡る建替プロセスの各工事を確実に予算内に設計し、順序よく円滑に施工者を決定して工事をしていくことが必須であった。常にコスト意識を持って、各工事の概算・設計・積算・VE・CDのステップを精度よく進めることで、コストコントロールと手戻りのないスケジュールマネジメントを実践してきた。不調となる公共工事が多く見られる社会状況、非常に厳しいコストの中で、スムーズに進めることができたのは、最初に掲げた「中央緑地全体を再整備するという高い目標」と「それを成し遂げる緊張感」をチームで共有して持ち続けていたことが大きかったと思っている。

厳しいコスト条件で起こる予期せぬ事象、VE・CDの判断の中で、常に意識していたことは、「市民(ユーザー)にとって何が大切か」ということだった。「真に実現すべきこと、本当に実現したいこと」を問い直すことで、感覚を研ぎ澄まし、より洗練されたディテール、素材選定、本質が伝わるデザインを生み出し、美しいものとして残したいという想い、繰り返し、繰り返しの丁寧な検討と共同作業が、困難を乗り越えるごとに進化し続ける建築を生み出すことにつながったと考えている。
つくり手よりも永く生き続ける建築が、景観と呼ばれるものとなり、長く愛される建築、時代を超えても残したいと思われる建築になるには、私たちつくり手の想いの強さが大切だと信じている。

竣工年
2020年
所在地
三重県四日市市
延床面積
17,548m²
階数
地上3階
構造
RC/一部S

四日市市中央緑地
スポーツ施設

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