DESIGN STORY

コラム:After/With COVID-19時代の建築(2)

COVID-19以後の医療施設

常務 執行役員 業務本部 副本部長 佐藤 基一

  • 日本の医療の実態と
    感染症対応

    急激な人口減少と高齢化に直面しているにも関わらず、日本の医療体制は手薄です。まず人口1,000人当たりの医師数が少なく、OECDが2019年にまとめた資料によるとギリシャ6.1人、ドイツ4.3人、イギリス2.8人、アメリカ2.6人に対して日本は2.4人です。さらに病床数や入院日数は諸外国に比べて多いため、病床に対して医療従事者が極めて少ない国といえます。さらに近年、感染症病床は著しい減少傾向にありました。厚生労働省の資料によると、1996年に9,716床あった感染症病床は2019年には1,809床まで減少 しています。実際に感染症病床の利用率は非常に低く、医療従事者が感染症への対応をほとんど経験していなかったといえます。このような状況で2020年、新型コロナウイルスの感染拡大が起き、COVID-19患者を扱う医療スタッフが混乱、疲弊し、診療報酬が激減するという事態に直面しました。

  • 改修でCOVID-19対策を
    行った医療施設

    このような状況を受けて私たちは医療施設のつくり方に対して十分な配慮が必要であると再認識させられました。特に重要性を感じたのは、設計者が感染経路を把握し、それを断つことです。実際の医療施設で改修や設計変更という形で感染症対応をした際にも、その点を軸に対策を講じました。弊社設計で2015年に完成した岡山市立市民病院 は、コロナ禍の脅威が本格化した2020年、一般病床の一部23床をCOVID-19に感染した患者の入院や治療に対応できるよう改修工事 が行われました。感染症病棟がある隣接病棟が改修されたのですが、この場所は設計当初から将来感染症対応することもある程度視野に入れて設備計画されていました。感染患者が入院できるよう。通常の病室は等圧もしくは陽圧ですが、COVID-19は室内の空気を逃さない陰圧がのぞましい。そこで当初の将来計画を活かして、空調システムの一部を改良し、フロア全体の病室陰圧化やHEPA排気システム、観察カメラなどを追加しました。あわせて患者の容態の急変が把握しやすいように病室と廊下の間仕切りに窓を設けて可視化しました。またオープンカウンターだったスタッフステーションでは内部を保護するためにアクリル版を加え、空気の流れを遮断しました。

    *改修設計:(株)宮崎建築設計事務所/改修後の写真提供:戸田建設

建設中の医療施設を
設計変更する

つづいて紹介するのは、建設中の病院で実施した設計変更の事例です。当初は1フロアに感染症病床4床、一般病床等があり、それぞれのエリアを廊下に設置した建具で区切る計画でした。しかし、感染症への対応力を高めるために、必要に応じて3段階で感染症病床を増やせるように変更しました。この変更により、受入れスタッフ等の諸条件が整えば、施設的には最大で30床程度の感染症病床を確保できるようになりました。ちなみにスタッフステーションのあり方はコロナ禍を受けて、大きく様相が変わった部分です。これまではオープンでアクセシビリティが高いものが望まれていましたが、今後は感染から医療スタッフを守るためにある程度閉鎖空間が必要になってくると思われます。

これからの病院計画の
ポイント

前述したように重要なのは、感染経路の遮断です。建築で対応可能な感染の種類は「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」に加えCOVID-19で示唆されている「エアロゾル感染」です。「接触感染」では、触らないということが一番です。自動扉や自動精算機などを導入し、タッチレスな環境をつくることが有効です。「飛沫感染」「空気感染」「エアロゾル感染」に対しては感染の疑いのある患者と他の患者および職員との動線の分離、病室の個室化や陰圧化が有効です。設計者はこうした対応策を十分に理解して計画していくことが大事です。また施設を変えていくだけではなく運用も含め、設計側と運用側が共に考えて実現していくことが肝要です。COVID-19はまだまだわからないことも多く、少しずつ原理が解明されていくことだと思います。医療施設の設計者は新しい情報を注視しながら設計に活かしていくことが重要だと考えています。

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