DESIGN STORY

嘉麻市庁舎

自然と共生し自然を
活かす環境建築

  • 気候特性を読み解く

    嘉麻市は福岡県のほぼ中央、嘉穂盆地内に位置している。本プロジェクトは1市3町の合併により生まれた嘉麻市の新庁舎の計画であり、2016年4月に設計に着手した。
    まず機械設備設計者として取り組んだのが、嘉麻市の気候特性を読み解くこと。
    気候特性を読み解くなかで分かってきた特徴の1つは『一定でない風向き』。嘉穂盆地内に位置する嘉麻市の風は風向の特性がなく、季節や時間帯によらず様々な方角から風が吹いている。
    2つ目は『昼夜の温度差』。夏場の日中に35℃を超すような猛暑日でも夜には25℃を下回る。
    そのような気候特性を活かした環境建築を実現するためには、自然に寄り添い共生する姿勢が重要だと考えた。

  • デザインと
    エンジニアリングの融合

    自然と共生し自然を活かす環境建築を実現するためには、意匠設計者・構造設計者との連携が重要である。
    特徴的な意匠である柱と梁が建物の外へ張り出したアウトフレーム構造は、九州地方の厳しい夏場の日射をカットする日射制御装置としての役割も担っている。扁平した柱と梁は、構造設計上必要な寸法に加え、日射遮蔽に適した寸法という観点も併せて検討を行い、最適解を導き出した。
    また、アウトフレームがウィンドキャッチの役割を担うことで、様々な方向から吹く風を効果的に室内に取り込むことを可能にし、室内に導かれた風は建物中央のエコボイドからハイサイドライトへ抜けていく。構造体を利用したウィンドキャッチと建物の上下温度差を利用した重力換気の考え方による効果的な自然換気を実現した。
    意匠設計者・構造設計者と議論を重ねながら、お互いの計画に刺激を受け影響を与えることで、それぞれの領域を超えた合理性を追求することができたと感じている。

  • 昼夜の温度差を活かした
    蓄熱空調システム

    嘉麻市は、夏場でも夜間には外気温度が大きく低下する気候特性を有している。また、空調用の冷水を製造する空冷チラーは、外気温度が低いほど、製造する冷水の温度が高いほど、運転効率が向上するという特徴がある。
    そのような気候特性と機器特性を活かし、外気温度の低い夜間に効率よく冷水を製造し蓄熱槽に蓄熱、外気温度の高い昼間は中温冷水と言われる少し水温の高い冷水を製造することとした。
    夜間に製造した蓄熱槽の冷水と中温冷水の2つの温度帯の冷水を使って空調を行うシステムを構築することで、空調熱源システム全体での効率向上を実現している。

  • 汎用性の高い新技術の開発
    ~低温送風対応型床吹出口~

    嘉麻市庁舎では2つの新技術を採用している。
    1つ目は低温送風に対応した床吹出口。
    大空間の執務室では、居住域のみを効率よく空調する省エネルギー性の高い床吹出空調システムを採用した。空調システムは、冷房時に低い温度で吹き出すと空調風量が低減でき送風ファンの電力消費量を削減できるが、床吹出空調で低温送風をしてしまうと比重の重い冷気が床面に溜まり底冷え感による不快な執務環境になるという問題があった。
    そこで、開発したのが『低温送風対応型床吹出口』である。この吹出口は低温で吹き出しても足元に冷気溜まりが発生しないよう、空調空気を居住域まで吹き上げることを目標に開発した。それを実現するため、吹出口の形や内部機構を工夫し、工場実験による事前検証を行ったうえで導入している。この吹出口の採用により、床吹出空調の省エネルギー性をさらに向上させつつ快適性も確保することが可能になった。

  • 汎用性の高い新技術の開発
    ~自然調和型ペリメーターシステム~

    2つ目は自然調和型ペリメーターシステム。
    屋内と屋外をつなぐ環境装置として窓際のカウンター内に設置しており、ペリメーターファンと切替ダンパーにより構成されている。
    このシステムは、室内外の温度や湿度などの環境に応じて3つのモードが自動で切り替わることで、冷房・暖房期の快適性の向上はもちろん、外気冷房や中間期の自然換気など、自然の恵みを室内に取り込みながら空調稼働時間を低減することに寄与している。
    実際に自然換気モードで運転していた時の室内温度の推移を確認すると、概ね22~26℃程度となっており、エネルギーを使わずに快適な室内空間を提供できていることが確認できた。

  • 設備設計者の思い

    設計意図が竣工後の運用の中でどのように実現されたか、データで検証することが非常に重要だと考えています。嘉麻市庁舎は、自然と共生し自然を活かす環境建築の実現により、年間の一次エネルギー消費量を約49%削減することができました。
    その実績が評価され、2022年度の『第37回空気調和・衛生工学会振興賞技術振興賞』を受賞しました。
    さらに、建築・構造関連や照明関連を含む多くの分野で数々の賞を頂いております。
    嘉麻市庁舎が事業者とともにプロジェクトチームが一丸となって実現した環境建築であると深く実感しています。

    九州支社 主管 清水章太郎

竣工年
2020年
所在地
福岡県嘉麻市
延床面積
9,652m²
階数
地上6階
構造
RC/一部S

嘉麻市庁舎

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