成熟社会に向かって、公共文化施設のあり方も根本的な転向を迫られている。「生きがい」や「充実した生活」が求められるようになり、地域の日常的な芸術文化活動が、大きな社会的役割を担いつつある。このような認識のもと、当プロジェクトでは日常的な活動の場となる練習創作空間を重視し、施設の中心的存在とする計画を試みた。 それは、外部環境と連続するワンボックスの自由空間をつくり、それを公園のように誰でも自由に歩ける場とすることである。具体的には、中央に「アートファクトリー」と名付けた練習創作室群とレストスペースが散在する場をつくり、舞台芸術に係わる様々な活動が立体的に展開する地域の生活空間を創出した。またホールの観客とアートファクトリーの練習者がひとつの場で出会い、観客が期せずして練習風景に感化されたり、練習者同士が意気投合して新たなグループを結成するといった、活動の連鎖が地域に広がっていくことを図った。このように新たな建築プログラムと空間計画を導入することで、訪れた人々の間に相互のライフスタイルや価値観の偶発的な交換や分配が行われ、新たな音楽グループや演劇サークルが生まれるなど、地域の人々の生活が豊かになっていく場を目指した。