【パラアスリート】「ワクワクとドキドキ」を大切にしたい!

2022年7月1日久米設計に入社した坂元智香選手。
パラ・パワーリフティングで日本の女子として初めて東京2020パラリンピックに出場し、女子79㎏級8位の成績を収めました。
現在はパリパラリンピックの出場に向けて日々競技の練習に励んでいます。

パラ・パワーリフティングとは・・・

パラリンピックのパワーリフティングは、下肢障がいの選手によるベンチプレス。
障害レベルのクラス分けはなく、体重別(男女各10階級)に分かれて競う。選手はベンチに横たわり脚を伸ばし、ラックからバーベルを外した状態で静止した後、審判の合図とともに胸まで下ろし、再びバーベルを上げる。床に足を着けて行うのではなく、延長されたベンチプレス台の上に足を乗せて行うのが特徴。

写真撮影:西岡浩記

■坂元選手がパワーリフティングを始めたきっかけを教えて下さい。

高校生の頃に怪我をして元々体を動かす事が好きだった事もあり、パラスポーツの車椅子テニスをはじめバスケ・マラソン・陸上競技の投擲など様々な競技を経験してきました。きっかけとしては大分で陸上に励んでいた時に、重たい物を持ち上げるトレーニングも行っていて、その場にいらっしゃったパワーリフティング選手の方から声を掛けていただいた事でした。パラスポーツは女子選手が多くない上に、日本人だと重たい物を持ち上げる競技に取り組む人が少ない事もあり、体も大きい事を活かせる競技であるとお誘いをいただきました。実際は3年間断り続けていましたが・・・。

■パワーリフティングへの誘いを断っていた理由があるのでしょうか。

その理由は女性特有だと思うのですが・・・
なぜパブリックに体重を公表する必要があるのか意味がわからないと思っていました。健常者として過ごしていた中学時代にも柔道部に声を掛けられた事があったのですが、その時も同じ理由で断っていました。

■断り続けていたパワーリフティングをやろうと思ったのはなぜでしょうか。

陸上競技は障害によってクラス分けがあり、クラス分けの判定によっては自分よりも軽いクラスの選手と同じカテゴリに振り分けられるケースがありました。でも、パワーリフティングのカテゴリ分けは体重のみだったので、陸上競技のカテゴリ分けで悩んでいるよりも、チャンスのあるパワーリフティングに誘ってもらったなら思い切って乗っかるのも有りではないかと考えるようになりました。
最終的に2017年の秋頃に決意し種目変更しました。実は主人も車いすユーザーで車いすマラソンに励んでいたのですが、男子の場合は競技人口も多く勝ち上がるのはとても大変で、その経験をした主人から、女子の中で競技人口も比較的少ないパワーリフティングであれば勝ち上がっていく可能性も高くなるし、その可能性があるのであればチャレンジするのが良いのではないかと後押ししてもらったのも大きかったです。

写真撮影:西岡浩記

■種目変更する方は多いのでしょうか。その理由はどんなことがあるのでしょうか。

実際に種目変更される方もいますし、競技を並行している方や同じ競技を長く継続している方もいるので環境によって様々です。
私自身は仕事の関係で大分県へ引っ越した際に、車いすマラソンにもチャレンジしました。大分県は国際大会を世界で初めて開催するなどパラスポーツの聖地とされている都市でもあり、その都市に引っ越してきたからには、チャレンジしてみようと思いました。障害を持った事で、歩けない、立てない、高い物が取れないといったように出来ない事も沢山増えましたが、健常者の中でテニス、バスケ、マラソンを競技として取り組んだ人はいないし、パラスポーツであればそれが可能であるのだから、自分の幅が広がると思い沢山の種目に取り組んできました。

■様々なスポーツを経験し当初からパラリンピックを目標としていたのでしょうか?

元々はそんな事はなかったのですが、車いすバスケをやっていた2008年頃に意識し始めました。その頃は北京オリンピックの開催前で練習や合宿に参加していましたが、当時はパラリンピックに対する理解も低く、会社を休んで練習や大会に参加するのも企業によっては難しい環境でした。
2013年東京招致が決まった際に、出場できるのであればチャレンジしたいという気持ちが更に強くなり、その時は投擲競技で出場しようと考えていました。投擲競技は練習する際に、投げたら取りに行く必要があったり、台を固定する必要があったりと練習をする上でクリアしなくてはならない事が沢山ありました。そこで天候に左右されず、練習環境も他の競技より整いやすいパワーリフティングで出場を目指す事が戦略的に良いのではないかと考え、世界に挑める競技を見極めてパワーリフティングで世界を狙おうと考えました。

■普段どういったトレーニングを行い、気にしていることも教えて下さい。

パワーリフティングの場合は、専用の台を置いているジムがなかなか無いため、健常者のベンチプレス台に、補助台を取り付けることで練習できます。しかし、ジムの利用に付き添い者がいないと断られるケースもまだまだあります。また健常者が利用されるシャフトとサイズが異なるので、シャフトを挙げる事は出来ても集中した練習が出来るかというとそうでない事もあります。練習メニューを連盟から出してもらっているので補助トレーニングも含めながらメリハリをつけて日々考えながらトレーニングをしています。競技をする上で体重管理も重要なので、海外遠征の持ち物で一番多いのは食材です。海外で食事が合わないから体重が減り、パワーが出ないとは言えないので、技術を磨く事と同様に気にしています。実際に海外遠征にはお米も持っていきますし、大好きなうどんや焼き菓子断ちはしています。私は負けん気も強いですし、真面目な性格なので人よりもやり切るといった気持ちが強く、無理しがちなところはありますが、自分自身を管理する事、自分に負けたら人にも負けると思って日々生活しています。

写真撮影:西岡浩記

■坂元選手の癒しやリフレッシュ法は何ですか? 

ファミリーフィッシングで明け方から釣りに行く事もありますし、美術館巡りも好きです。
リフレッシュできる場所です。

■久米設計は様々な用途の設計に携わっており、車椅子の利用者として気を付けて欲しい事など設計者にアドバイスをいただけますか?

おしゃれとバリアフリーは比例しないと思っていて、不特定多数の人が頻繁に使う場所で目的がわからない施設にモヤモヤする事もあります。車椅子利用者が想定されていない施設である事がわかると、拒否されていると思ってしまいます。多目的トイレも施設によって明らかに数が足りていない施設もあると思います。多目的トイレの数を増やせないのであれば一般のトイレを広げる工夫や、
扉が観音開きであれば利用できるのにと思う事もあります。車椅子から便器に移るまでには動作も多いのでセンサートイレだと動くたびに水が流れてしまう事もありますし、蓋つき便器だと壊してしまう可能性も高くなります。その費用を壁付けの椅子を設置する等、工夫できると思うのでぜひ意見を直接聞いていただき、出来る範囲で反映して欲しいですし、1日車椅子で生活してみてはどうかと思います。見た目の綺麗さよりも、様々な利用者の事を考えて設計に繋げて欲しいです。もちろん利用するすべての人が使いやすい施設は難しいと思いますし、障害の中でもブラインドの人と車椅子の人では求めている事が違う事もわかっていますが、それぞれの意見を聞いて、無駄な事を削ぎ落していく事でより良い施設にして欲しいと思います。
私の障害を設計に使ってほしいとも考えています。

■久米設計に入社して期待することはありますか?

設計者のみなさんも今までは障害について知り得る機会が少なかったと思うので、私から障害を伝えられるように機会を作って欲しいと思います。車椅子利用の人がどのように生活しているのか聞いて欲しいし、設計会社に障害者を雇用した事で今後の設計に影響が出る事もあるのではないかと思います。私は常に「ワクワクとドキドキ」の気持ちを持って楽しく仕事をしていきたいし、お飾りではいたくありません。設計の初期段階で車椅子の意見を伝える事でプロジェクトに反映できるような機会を設けて欲しいとも思うし、お互いが勉強して、情報共有の場を設定いただき、会社貢献できるように頑張りたいです。

■主な成績:日本財団パラスポーツサポートセンターHP引用

大会名 順位
2018年 北九州ワールドパラ・パワーリフティングアジアオセアニアオープン 73㎏級  5位
2019年 第2回パラ・パワーリフティング チャレンジカップ京都 女子73㎏級 1位(日本新記録)
2019年 第19回全日本パラ・パワーリフティング選手権73㎏級 1位
2019年 Nur-Sultan2019 World ParaPowerlifting Championships 73㎏級 13位
2019年 READY STEADY TOKYO(2019 Para Powerlifting World Cup)73㎏級 2位
2020年 第20回全日本パラ・パワーリフティング選手権79㎏級 1位
2020年 第3回パラ・パワーリフティングチャレンジカップ京都女子79㎏級 1位(日本新記録)
2021年 東京2020パラリンピック女子79㎏級 8位(77㎏)