DESIGN STORY

嘉麻市庁舎

「時代背景/地域環境」への応答

  • 熊本地震と合併特例債活用期限 /
    嘉穂盆地内の遠賀川沿いの敷地

    1市3町の合併により2006年に福岡県嘉麻市は誕生した。
    嘉麻市は周囲が山林で囲まれた嘉穂盆地内に位置し、北部九州最大の川である遠賀川の源流がある。計画敷地は遠賀川沿いの豊かな自然環境の中であった。
    2016年4月の熊本地震直後から設計を開始し、合併特例債活用期限の2020年3月竣工が求められていたため、自然的要因(熊本地震)と社会的要因(合併特例債)の狭間で計画を進める点も大きな特徴であった。
    以上のような背景から、遠賀川の恵みや盆地特有の環境を最大限に生かしつつ、安心・安全性確保とイニシャルコスト縮減を両立した合理的な建築のあり方を追求した。時代背景・地域環境に対して純粋に応答することが、この市庁舎建築の姿勢としてふさわしいと考えた。

吊天井(落下物)の排除 /
遠賀川に開き、周辺の緑を映しこむ

震災時の執務空間の天井脱落により防災拠点機能が停止するリスクを、吊天井をなくすことで完全に排除するため、打ち放しコンクリートの直天井と二重床・床吹き出し空調の執務空間として計画した。
遠賀川側に開いた開放的な執務空間のフラットな躯体天井には、周辺に広がる豊かな緑が幻想的に映しこまれる。

  • 無駄を削ぎ落した建築形状 /
    美しい風景の中、
    彫刻的に佇ませる

    イニシャルコスト縮減の観点から、「コンパクトな正方形平面(外装面積の最小化)」、「基壇のないワンボリュームの計画(免震層の最小化)」、「アウトフレーム=ファサードデザイン(外装材削減)」とした結果、無駄なものが削ぎ落とされたコンクリートの「矩形」が残った。
    このコンパクトなコンクリートの「矩形」を遠賀川の畔に彫刻的に佇ませ、美しい嘉麻市の風景を阻害することなく新たな風景へと更新した。

構造体を生かしたファサード / 盆地特有の風を取りこみ、自然換気を促す

季節・時間によって風向きが変化する、一定でない風向きが盆地特有の風環境であった。
建物全周囲に均質に扁平柱を配列することで、あらゆる方向の風を室内へと導く「ウインドキャッチ」として機能することが環境シュミレーションによって分かったため、構造と環境を融合した盆地特有のファサードとしてデザインをまとめた。さらに導いた風を生かし温度差換気を促すため、縦方向の通風経路としてエコボイドを設けた。このエコボイドは風を導くと同時に、この空間に入れば各階の窓口番号を見渡すことができるため、市民を優しく窓口へと誘導する機能も兼ねている。このように盆地環境に呼応する形で平面・断面計画を決定した。

  • 合併のシンボル /
    地域材の活用

    コンパクトな市庁舎の中央に嘉麻市産杉材で包まれた正方形の議場ボリュームを浮遊させ、その下をコミュニケーションスペースとした。
    議場を「木のボリューム」として可視化させ、「合併のシンボル」としてデザインすることで、今まで希薄であった旧自治体間の関係性を強くすることを心掛けた。木ルーバー面には市民(寄附者)の名前を刻印することで、市民の愛着を育み、地域に根差した市庁舎の核に繋げた。
    今まで間伐した市有林の原木を売却していたが、本計画では間伐した原木の一部を内装材として利用することに試み、嘉麻市の新たな木のサイクルの形成と今後の市内公共施設の木質化の指針となることを目指し、まちづくりへの展開を見据えた。

竣工年
2020年
所在地
福岡県嘉麻市
延床面積
9652m²
階数
地上6階
構造
RC/一部S

嘉麻市庁舎

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