DESIGN STORY

JA神奈川県厚生連 相模原協同病院

“病院建築”から
『これからの医療を
支える建築』へ

病院存続の危機や
コロナを乗り越えて

政令指定都市の相模原市における高度急性期を担う病院の移転新築計画である。
プロポーザルを経て実施設計まで順調に進展したが、他県でのJA病院の経営破綻や当時のJAへの風当たりなどの影響を受け、病院存続が議論されるほどの危機に直面した。そのため、一時的にプロジェクトは中断したが、病院内では相模原の医療の使命を果たすべく熱い議論が巻き起こり、病床数と規模を大幅に見直す形で再設計を行った。

施工中はCOVID-19の影響も受け、工事を進めながら感染対策等の見直しも行い、居室換気量の強化や、陰圧室の設置などを実施した。
2020年11月には建物の竣工を迎え、翌年1月には無事開院した。開院後も、IVR室の増築や日本初のCTルームを備えた医療コンテナの設置など、常に最先端の医療を提供し続けている。相模原協同病院はCOVID-19患者の日本初の受け入れをはじめ、様々な困難を乗り越え、地域社会に健康と希望をもたらす存在として、その歩みを着実に進めている。

セオリーに捉われず、
新しい発想でつくる

再設計では2つの重要な命題が求められた。1つは、2021年1月の開院を実現すること。2018年3月から始まった設計期間を10ヶ月で完了させ、18ヶ月の工事期間で超短工期を実現する設計が必要であった。もう1つは、事業予算の厳守である。厳しい社会情勢のもと、非常に限られた予算内で高度急性期病院を実現することが求められた。

私たちは、これまでの病院建築の一般的なセオリーではこの2つの命題を解決できないと判断し、久米設計の実績にはない「脱基壇型病院」を提案した。多くの病院は、低層の外来診療棟と高層の病棟の2層構成で成り立っている。これを分離し、外来診療棟と病棟を分棟型にすることで、2棟同時の工事着手を可能にし、約5ヶ月の工期短縮と建物の重量軽減による直接基礎構造への変更により、コスト削減を実現した。

病棟については、空調負荷や西日の問題から、多くの病院では南北面に病室が配置されている。しかし、このプロジェクトでは、病室が環境的に不利な東西面に向けられている。この点を逆手に取り、温熱環境や視線をコントロールする病棟アウトフレームファサードを提案した。これにより、病室内の柱をなくすとともに、3.15m間隔で配置された柱が西日を遮る役割を果たし、近隣住居に対する病室からの視線を遮ることも実現した。スタッフステーションにおいても、PC梁を採用することで30m×18mの無柱空間を実現し、病院スタッフのコンタクトのしやすさなどで好評を得ている。

外来診療棟においても、病棟の柱の影響によりプランに制約が生じやすい。分棟形式とすることで、将来の改修が容易な効率的な柱スパンを実現し、患者の上下移動負担の軽減にも寄与している。

  • 病院長が
    プロジェクトに込めた思い

    このプロジェクトでは、病院長のこだわりが実現されている。一つ目の特徴は、東西に貫く患者のメイン動線であるホスピタルストリート。病院長が「明治神宮参道のように、とにかく真っ直ぐ」というビジョンを持っており、それを具現化した。このホスピタルストリートはプロジェクトの根幹をなすもので、配棟計画の決定に大きく寄与している。ストリート沿いに外来や検査の窓口を集中させることで、患者にとって分かりやすい計画となっている。

    もう一つの特徴は、「さがみはらラウンジ」と呼ばれる外来のバッファスペース。これは病院長の患者の受療環境を大切にする思いから生まれた待合空間である。もっと他の用途に面積を割り当てる案もあったが、病院スタッフは患者の環境改善を優先し、このスペースを実現した。

    設計にあたっては、久米設計として初めてのVR施主プレゼンを行った。ホスピタルストリートやさがみはらラウンジは図面上では表現しにくい空間だが、病院スタッフがVRゴーグルを通じて仮想空間を体験することで、空間のイメージが湧き、計画への理解が深まった。実際に完成した空間は、VRで体験したものと遜色なく実現されている。

  • スタッフとともに創る
    癒しの環境

    病院にとってサインデザインは、特に重要な要素である。このため、サインコーディネーターや病院スタッフ、外部の近隣美術大学のアートデザイナーを含む「アメニティーワーキンググループ」を結成し、設計者と共にサインデザインを検討した。サインデザインでは、地元野菜をモチーフにしたカラーデザインや患者案内方法など、病院スタッフとの議論を通じて決定していった。
    また、患者の癒し環境に寄与するため、病院スタッフやその家族、子どもたちが参加して作成した「0円アート」も取り入れた。当初は、近隣住民や学校の参加も予定されていたが、コロナの影響で病院スタッフ関係者のみに限定された。参加者は木片に色を塗り、それぞれの創造性で農作物アートや樹木、水などを表現した。これら手作りのアート作品は院内の至る所に配置され、癒しの環境づくりに貢献している。

“病院らしくない”
病院をつくる

-スペースシャトル-
相模原市はJAXAの本拠地であり、この地域の特徴を反映した「宇宙」をテーマにしたデザインが採用された。誰もが病院に入りやすいように、大きな窓のある明るいエントランスにはコンビニや総合受付を設置し、病院関係者だけでなく高校生や近隣住民も訪れる活気ある空間となっている。

-大規模なバスロータリー-
駅前にあった旧病院から2km離れた新しい場所への移転に伴い、患者の利便性を考慮して二連バスの運行が計画された。L型の前面道路に病院入口(バス入口)を接続することが大きな課題であり、大型バスがスムーズに出入りできるよう道路線形の設計を行い、警察、相模原市、バス会社の協力を得て地域の中心となるバスロータリーを実現した。

-野菜マルシェ-
イベント広場に設置された農協の野菜販売所で、患者やその家族だけでなく地域の高校生や住民にも好評である。

-スタッフと患者ゾーンの融合-
スタッフと患者の距離を縮めるために、吹抜けを介してスタッフゾーンを患者ゾーンに表出させる設計としている。
この吹抜け沿いで休憩するスタッフは外来からも視認でき、両者の距離が縮まっている。

-お祭り広場-
年に1回、広大な駐車場でお祭りを開催し、農業高校とのコラボレーションにより地域の活性化に寄与している。
昨年は2000人の来場者を迎え、大成功を収めた。

竣工年
2020年
所在地
神奈川県相模原市
延床面積
32,024㎡
階数
地上6階
構造
S/SRC/RC

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