永きに渡り積み重ねられた歴史と風土が今も色濃く残る京都東山に、グローバルツーリストを受けとめ、日本・京都の魅力を伝えるディスティネーションホテルを実現した。敷地内には約800年前の平重盛邸を起源とする庭園「積翠園」があり、行政とともにその庭園の最適な保存デザインの在り方を追求し、あるべき姿として現代に蘇らせた上で、建物と庭園が一体的に魅力を高める空間を創り出している。
L型で高低差のある特殊な敷地条件と、風致地区による高さの制約を、恵まれた景観・環境を最大限享受する手掛かりとして、コンテクストを丁寧に読み解き計画に重ね合わせた。建物は約290mの帯状配置とし雁行や折り返しをさせながら、敷地各所のポテンシャルに積極的に対面させるファサードを拡げる計画とした。帯状配置による延長の伸びやかさが景観上の調和の表現となるよう、屋根や庇が高さや向きを変えながらリズミカルに連続するようにした。
日本屈指の観光都市京都において本事業の企画時、グローバルツーリストのハイクラスな要求に応えられるホテルが皆無であった。拡大するグローバルツーリズムを受けとめられるディスティネーションに相応しい充実したホテルの整備が求められていた。自治体側からの強い要望も受け、外資事業者、海外ハイエンドホテルブランドとともに事業企画がスタートした。
デザインにあたっては、京都という日本古来の伝統建築が数多く残る地を訪れるゲストの期待に応えるため日本建築の要素を取り入れている。グローバルツーリストにこれまでにない新しい体験を提供できるよう、伝統的な建築様式の模倣ではなく、新しさのある“JAPANESQUE-日本らしさ”のデザインを目指した。外部の天然杉板と格子状のメタルフレームによるパターンや内部の大胆な木質素材のデザインでモダンな“日本らしさ”を表現している。
ホテル施設(ハード整備)に依存するゲストサービスだけでなく、周辺にある資源や京都全体の魅力をゲストに伝える、地域価値の伝承や振興にも力を入れた運用を行っている。ホテルコンシェルジュが京都の知られざる魅力などをゲストに紹介、様々な体験を仕立てている。海外ツーリストがホテル体験と合わせてオリジナルのまち体験を楽しむ。観光都市京都の更なる都市力強化というニーズに、ハードだけでなく地域を活用したソフトにも力を入れ応えている。