高齢化が進む地域医療には、心の落ち着く居心地の良さが大切であると考えた。
メインフロアは、南側全面の眺望と自然光を確保した一体的な空間としている。診察の待合や図書利用の目的など、様々な過ごし方に配慮した家具を選定し、誰もが心地よく過ごせるデザインとした。
病棟内はタイルカーペットを採用した静かな病棟環境を目指すと共に、間接照明を中心に照度を控えめに抑えながら、廊下の各端部から明るい自然光と緑の眺望を確保できる快適性の高い入院環境を目指した。
地方医療の現場にとって、働く環境の快適性は最も重要なテーマである。
全体としてコンパクトなフロア内に、食事や休憩に使える職員専用ラウンジを広く確保し、講堂との一体的な利用も可能となる、利便性の高い職員専用フロアを計画した。
職員の執務空間は、職種ごとに極力間仕切りを設けないワンルームとした結果、必要な諸室に十分な面積を確保でき、風通しの良い職場空間となっている。
敷地は高知市街地より北側の高台にあり、背後に山を抱いた緑の景観が広がっている。周囲は低層の住宅が建ち並び、圧迫感のない計画が求められた。
外観は、病棟・外来・手術などの「部門機能」に応じた多様な開口と形状によって、単調にならない豊かな表情をもたせ、高知の台地に浮かび上がる、街の全方位から見える先進医療のシンボルとなることを目指した。
永く地域に愛される病院には、土地の伝統と親しみを感じられるデザインが大切である。
メインエントランスは華美で広大な空間とせず、コンパクトで家庭的なスケールの導入空間を目指し、高知らしい木質系の素材を活かした意匠デザインとしている。玄関付近には来院者が気軽にくつろげる家具や、高知の染め物伝統工芸である「フラフ」をアートワークとして設け、訪れる地元利用者にとって親しみのある空間となるよう工夫を施している。
フラフの製作には、実際に染物工房へ足を運び、柄の選定から製作工程を体験し、施主と共に親しみの持てるアートとなった。
高知圏域で予想される地震災害や大規模水害時下でも病院機能を維持できる、安心と安全を約束する堅牢性が期待されている。免震構造の採用や屋上ヘリポート設置の他、病院機能に必要なエネルギーや給食、薬剤などの主要部門を2階以上の配置とし、予想を超える水害による地上階の完全水没時にも、入院患者を守り、機能を保持する階層構成とした。
多角的な防災対策と共に、高い環境性能も確保しており、大規模病院としては初のBELS認証によるZEB Readyを達成している。