老巧化した区役所の建替えを機に、図書館や交流施設、カフェなどとの合築により新たな地域交流拠点を創出する計画である。敷地は大宮駅とその南に位置するさいたま新都心のほぼ中間にあり、「大宮」の由来でもある氷川神社の参道にも接することから、この地にまちの魅力となる施設や環境を置くことにより街をつなぎ、活性化することを目的としている。積み重ねてきた歴史を感じさせる成熟した参道の緑を最大限に活かしながら、北側に隣接する山丸公園や市民会館と一体となって街の回遊性を高め、交流を促す豊かで楽しい居場所をつくることを大切にして計画を進めた。
施設は大宮区役所と大宮図書館というふたつの顔を持つ。いわゆる複合施設と呼ばれるものであるが、階層構成はこれらの施設を明確に区画せず、主に市民窓口から図書館、区役所の執務室へと、市民の利用の度合いが高い順に階を積み上げた。
そしてそれらをスパイラルアップする吹抜の共用空間を介して境界をなくし、グラデーション的に繋ぐことで、それぞれの目的から偶発的に活動が波及し、影響し合い、みんなの居場所となるような新たな公共の場を目指している。オープン以降、市民窓口利用者は手続きや相談完了後にそのまま施設を出ることは少なく、平日、休日を問わず様々な年代の利用者がそれぞれ自分の「居場所」をみつけて施設が賑わっている。
３つの吹抜け空間が上昇しながら連続するスパイラル空間は1階の市民窓口と連続し、イベントも行う多目的スペース「氷川の杜ひろば」が起点となっている。イベント時の観覧席にもなる階段ベンチ「ガイダンスステップ」を昇ると参道の緑に包まれる2階の図書館窓口へ。さらにグループ学習スぺースを段状に配置した「ステップリビング」を通じて３階の図書館メインフロアへと至る。参道の豊かな緑を楽しめ、性格の異なる様々な居場所がステップアップしてゆく心地良さを大切にしているため、空間づくりは主にシンプルな階層構成そのものに委ねている。また、大きな音も発生する１階から最も静けさが求められる図書館最奥のスタディルームに至る空間は、吸音されたスパイラル空間の距離に比例して効果的に静寂性を高めることで、連続するオープンな空間を区切ることなく図書館に求められる音環境を実現している。
PFI事業※で設計者として関わる以前、基本計画においてさいたま市と共に施設の在り方のプログラムづくりに関わり、区役所と図書館のあいだに「ふれあいスペース」という両者の連携と市民の交流を促す空間のイメージを提示した。それに続き設計時にはさいたま市を始め、事業の構成員である施工者や図書館を含む施設の維持管理と運営を担う会社などとの協働を行うなかで、各施設の管理方法や共用部分の在り方など、管理する側の視点と、利用者の利便性や空間の魅力などの視点を両立させるための落としどころを探った。賑わい施設としてのイベント運営や、深夜までの図書館などの営業時間の統一などのソフト面から、オープンな事務室やそこから閉架書庫への管理動線を利用者が通れるようにするなどハード面に至る議論の他、それらと平行した市民ワークショップにより様々な要望を確認するプロセスを経ている。参道に面した「けやきテラス」や下りのエスカレーター設置はそれらの中でも特に計画に良い影響を与えた例である。
※PFI事業：PFI（プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ）とは、公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方
製糸で栄えた大宮の歴史を継承し、絹糸を纏ったような透過性のある「絹糸スクリーン」を外装材とし、内部の用途や方角に応じて密度を調整して配置することで、参道の緑を内部に積極的に取り込み、賑わいを外部に表出させており、横引き窓による簡易な自然換気や直射光の抑制、対面するマンションとの見合い防止の役割も担わせた。
特に日没後は施設がオープンした直後に歩行者専用となった参道で散策やジョギングを楽しむ人々を図書館の賑わいが行灯のように照らし出し、並木の緑と一体となった新たな街の賑わいを感じることができる。
