DESIGN STORY

理想科学工業 理想開発センターⅡ

クライアントの
未来を共に創る

  • 想いに応える対話のはじまり

    2016年8月 高速印刷機を主力製品とする理想科学工業から「新しい研究開発拠点」の設計依頼を受けた。新たな製品・サービスの創出に挑戦するため、約2万㎡の土地を取得。共創の場、開発を促進させるイノベーションセンターをつくるという目的である。
    2022年現在、デジタル技術が飛躍的に進み、新型コロナウィルスの影響も受け、リモートワークなど多様な働き方が生まれる中、印刷業界を取り巻く環境も激変している。
    理想科学工業はこの社会変化を敏感に察知し、「これからを戦える」新しい開発の必要性を感じていたのだと思う。「新規事業開発の環境を整えたい」「約2万㎡の土地に最初の研究所を立ち上げる。規模は約2000㎡。恒温恒湿実験室1500㎡、開発製品のデモンストレーションを行う多目的室をつくり、研究の成果を上げていきたい」との相談を受けた。「世界に類のないものを創る」を開発ポリシーとする企業の新しい働き方・協創の場とは何かを考え始めた。

  • 広い土地に最初につくる起点
    -発展を連想する構成-

    印刷機を生産する企業の新しい研究開発の拠点、将来の発展を考えて取得した広い土地につくる最初の研究所である。
    計画にあたり、将来の発展が具体的にイメージできる構成が必要。「クライアントの未来を共に創る」にはクライアントに「この建築をつくってみたい・つくってみよう」と思ってもらえる建築でなければならないと考えた。
    求められた機能は大型機器の開発にフレキシブルに対応した実験室と研究成果のデモンストレーションが行える展示空間。恒温恒湿空調が可能な実験室の最大化をはかり、20m×20mの平面を1つの単位とする3つの実験ボックスと1つの展示ボックスをつなぐ田の字形の平面を考えた。風車のようにずらした十字部分に「出入口」・「会議」・「執務」・「コミュニケーション」の場をつくる。研究に集中する実験室の中央に研究者が集い、イノベーションが生まれる議論の場となる構成をイメージした。
    発展と共に、この十字部分を手掛かりに成長する「起点となる建築」を考えた。

  • 「高度な印刷技術」を
    企業アイデンティティとして表現
    -印字ヘッドの並びを
     モチーフとする建築をイメージ-

    研究所としてのセキュリティを重視し、機能的でありながらも、理想科学工業の企業アイデンティを現し、かつダイナミズムを感じる研究所とすることで、研究者の意欲を刺激し、開発を促進するきっかけになる建築をつくりたいと考えた。
    モチーフにしたのは、理想科学工業の高速印刷技術。「印字ヘッドからそれぞれの色を高速かつ正確に着弾、様々な色が重なり合って美しい印刷に仕上げる」この技術を可能にする、等間隔に並列した印字ヘッドの姿から「ストライプ」を基調とする建築をイメージした。
    屋根と外装は、立ハゼ葺きの金属外装で一体的に仕上げた。屋根と壁を連続させた立ハゼ葺きの葺き方向を変えることで、同じ金属素材が自然光の向き・時間・天候・季節により、それぞれのボックス,十字の庇ごとに異なった表情を見せ、建築の構成を際立たせる。
    のびやかに広がる十字の庇は,余剰地を持つ大きな敷地で企業の発展と共に研究所が増築されていくことを想起させる。
    つくばエクスプレス・圏央道・周囲の集合住宅やホテルの窓からの景観を意識した。田の字の平面、風車のような十字の構成が特徴的な姿となって見る人々の印象に残る。
    屋根と外装の一体的なデザイン。自然光により時々刻々と変化し,豊かな表情を見せる「新しい開発の風を起こす風車のようなカタチ」である。

  • ストライプフレーム架構の考案
    -プロフェッショナルな開発発表の
     舞台に相応しい空間-

    エントランスおよび研究成果のデモンストレーションを行う空間は、見付け幅を120mmに抑え,高さ300mmとした軽快なビルドH鋼(BH)によるフレームを1mピッチで並べた架構とした。高速印刷技術を想起させる縦基調のリズミカルな架構である。
    直交梁は天井内に納めるため、軸力伝達だけを目的とした細幅H形鋼BH-190×70を横使いとした。屋根面に必要な合成は構造用合板により確保。ストライプフレームの上にビルドT材(BT)をセットし、BHの自重による地震力はBTに直交するリブプレートで伝達させる計画としてBHより上で全てを処理した。横使いのBH梁は横座屈補剛が不要となるため、梁全長に渡って直交小梁がない、すっきりとしたフレーム構成を実現した。
    ガラスはクリアランス96mmの中にファスナーを納め、ストライプフレームから直接支持するガラスリブカーテンウォールとした。ガラス越しに見える立ハゼ葺きの金属外装のストライプ、ストライプ状に混植した多彩なランドスケープと呼応するリズミカルなデザインとした。
    照明(ダウンライト)もストライプフレームに仕込んでいる。
    仕組みを重要とする機械の開発の場に相応しい「目に映る全てが力学的かつ機能的に必要な構成要素となる」洗練された緊張感のある空間を目指した。

  • 機能性と拡張性の高いディテールの考案による恒温恒湿実験室
    知的生産性を高める「光と風に溢れた快適なプライベート空間」

    機能性と拡張性の高いディテールの考案による恒温恒湿実験室
    知的生産性を高める「光と風に溢れた快適なプライベート空間」

    20m×20m×H5mの大空間を恒温恒湿状態に保つため、全方位に吹出可能な円筒型置換換気吹出口を採用、熱流体解析から導いた分散配置により、発熱する大型印刷機器の配置を制約することなく、恒温恒湿空調の大空間実験室を実現した。
    天井・壁仕上げは、外装材の下地と天井吊り材の支持に適した1800モジュールに100角パイプをセット。コの字に加工してグラスウールをセットした有孔のスチールプレートを架け渡し、その上に高圧木毛セメント板・ポリスチレンフォームを挟み込んで、遮音・断熱・吸音効果を上げるシステムとすることで結露が生じない静穏な空間とした。天井・壁の外装は角パイプとコの字のスチールプレートを下地として、母屋や胴縁等の2次部材を無くした外装システムとした。100角パイプからはダクトやラック・照明・レースウェイも支持する。1800モジュールの角パイプから増設可能な拡張性の高い天井ディテールとした。
    十字中央を2階まで立ち上げ、自然の光と風を取り込むプレゼンルームとすることで、長時間恒温恒湿実験室で過ごす研究者に、外が感じられる場を提供、サーカディアンリズムを適正化し、快適性と知的生産性を向上させるよう工夫した。十字部分に配置したプレゼンルーム・外部研究者との共同研究を行うCW(コワーキングスペース)・事務室には、室内温度分布・静穏性に優れた3つの放射空調(天井パネル放射空調・RC躯体打ち込み型放射空調・除湿型放射空調)を採用し、四方を実験室で囲まれた中央に自然光を感じる快適で静かなプライベート空間を実現した。
    自然換気窓部分に除湿型放射パネルをセットすることで、取り込んだ外気を除湿し、除湿時に生じる微量の下降気流により、自然対流を促すことでプレゼンルーム・事務室・CW全体に自然の風がいきわたる計画とした。

竣工年
2020年
所在地
茨城県つくば市
延床面積
2,067m²
階数
地上2階
構造
RC/S

理想科学工業
理想開発センターⅡ

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