当初は想像もしていなかった長い時間を、この場所と、そこに寄り添う人々と共に考え続けることになったこのプロジェクト。
中津川市立図書館の移転・新築計画として2010年に始動し、設計・施工と進められる中、杭の施工段階で市民からさまざまな声が寄せられ、一度計画は中止されることとなった。
その後の約10年間、中心市街地に位置するこの敷地の活用方法や、市民にとって本当に必要な場所や機能のあり方について、多様な議論・検討が重ねられた。
その中から、「学び(図書館)」「市民交流」「観光」「子育て支援」という4つの異なる機能を融合した複合施設という新たなプログラムが生まれた。
今回の計画にあたっては、そうした多様な市民の思いにしっかりと応える施設を目指したいと考えた。
今回の計画で求められている4つの複合機能をまとめるにあたり、3つのキーワードで整理した。
機能を混在させる「マッシュアップ」された配置計画により連携を深め、特定の利用に限定せず「リバーシブル」に使える空間計画により利用率を高め、できるだけ仕切らず「ボーダーレス」に繋がり合う動線計画によって賑わいを活性化させることを目指した。
それによって多目的な利用や相互連携を可能とし、世代を超えた交流がまちの賑わいを生み出すことで、誰もが安心して過ごせる、居心地のよい場所になってゆくのではないかと考えた。
週末になると幾度となく中津川を訪れた。中山道沿いの宿場町間を歩く観光客や、栗きんとんを売る和菓子屋の店先に並ぶ多くの人々で賑わっていた。
また、毎月第1日曜日に中山道沿いで開かれる六斎市では、通りに面して屋台が並び、幅広い世代の人々が集う光景が見られ、その賑わいを取り込みたいと考えた。
さらに、地区で大切にされている地歌舞伎小屋や恵那山、美しい木曽ヒノキの森、蛭川の花崗岩など、市民それぞれが誇りに思う地域のデザインや素材を取り込んだ、まちの魅力が伝わる場所づくりをしたいと考えた。
敷地に残った杭を1本も無駄にしないことは、敷地に残された当初の計画の思いを引き継ぐことであり、市民の思いに応えるためにも大切なプロセスであった。
敷地に残る杭に合わせた5.4mの柱スパンを採用し、鉄筋コンクリート造の下部架構によって杭にかかる荷重の負担を平均化した。
また、当初の計画より面積が増えたことによる杭の負担を和らげるため、上部架構を鉄骨造に切り替え、鉄筋コンクリート造との混構造とすることで軽量化を図った。
鉄骨造のロングスパン化によって、新しい複合機能にふさわしい開放的な空間を実現した。
図書館・子育て支援・観光・市民活動、それぞれの機能に応えながら、どのような相乗効果を生み出すかという視点から、さまざまな関係者の意見やニーズをできるだけ取り込むことを意識した。
図書館スタッフ全員の生の声を聞くワークショップ、4機能を所管する部署はもとより、利用する市民活動団体16グループへのヒアリングで出た意見を計画に重ねた。
また、類似した5施設を実際に見学することで、発注者と設計者が思い描いたイメージを互いに確認し合うことができた。
さらに、設計段階から地元の木材組合や木材市場、石材組合を訪ね、ヒノキを含む木曽五木、岐阜県産の栗材や蛭川産の花崗岩など、地元産材の種類や活かし方を教えて頂いた。
加えて、3Dモデルで見え方や温熱環境のシミュレーションを行うことで、完成形のイメージ精度を高め、関係者との円滑な合意形成やフィードバックの正確な反映が可能となった。